どれくらい布団の中にいたのだろう。 窓の外はもう暗かった。 ゆっくり上体を起こす。 胸の痛みはもう消えていたが、相変わらず後頭部の下に灼熱感が残っていた。 それを無理やり押し込め部屋をでる。 「受験ノイローゼや・・受かれば治る」 強く自分に言い聞かせる。 そうしないと何処までも落ちていきそうなぼくの心を支える事ができないように思われた。 母が夕食の用意をしている。 暖かい匂いがぼくの中に入ってくる。 その時、急に涙が出そうになった。 「もうええの?」 「あ・・ああ」 溢れそうになる涙を懸命にこらえる。 「顔が赤いよ。熱あるんと違う?」 「な・何でもないて」 母の心配そうな顔から視線をそらすと、テーブルの上に置かれた封筒をとった。 「これ出さんとあかんから・・」 ぼくは逃げるようにその場から離れようとした。 歩き出そうとして足が止まった。 「どうしたん?」 ぼくの目が封筒にくぎづけになっている。 スローモーションのように視線を母に向けた。 母がぼくを見ている。 『何で?なんで何時もそんな心配そうにぼくを見るん?・・大丈夫、大丈夫やから』 訳が分からず怪訝そうに母の顔が問いかけている。 ぼくの目がもう一度封筒に戻った。 「え・N大からや・・」 「N大って・・」 時の悪戯に翻弄されたこの5日間。 待ち続けた入学案内。 まだ信じられず封筒を見ている。 『入学案内』・・これは明日に続く案内なのだろうか。 何故そのような思いが心をよぎったのか分からなかったが、素直に喜べない自分が不思議だった。 そして一つの季節が始まろうとしていた。 |
BALK | NEXT |