家に向かいながら何か”嫌”な感じがあった。
さっき電車から降りた時も汗ばんでいたし、胸苦しさから開放された気になった。前にも一度そんな気分になった事があったが、この”嫌”な感じはなかった。
はやく帰って眠りたかった。
今年授業を受ける予備校の書類を早くだして、来年に向けて準備をしなければ・・
今日あたりに予備校の書類がきてるはずだった。
ここにきてそんなにあわてる事もないが、何故か焦っていた。
何かが違ってきている・・歯車が狂い始めている。
その思いは痛みをともなってぼくの胸をしめつけていた。

家が近づくにつれ”嫌”な感じは強くなっている。
胸苦しさと同時にまたあの後頭部の下に灼熱感があった。
「何でや、こんなんおかしいやろ」
地団駄踏みたかった。
思いきり大声をだしたかった。

今日は春というのに肌寒かった。
なのに汗をかいている。
ようやくたどり着いた家の前でぼくは座り込んでいた。
弾んだ息をどうにか整える。
無造作に突っ込まれた封書を郵便受けから抜き取り、ぼくは家に駆け込んでいた。
よほどぼくの様子が可笑しかったのだろう。
「どうしたん?」
心配そうに母が声をかけてくれる。
返事ができなかった。

階段をのぼるのも辛かった。
身体に力が入らない。
「どうなるんや」
訳の分からない恐怖があった。
ぼくの中で何かが変わり、何かがおこっている。
引き出しから緑の箱をとりだす。
白い錠剤を飲みこんだ時、新たな不安がぼくのなかで広がっていった。
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