木々の緑に覆われた道に入ると病院の入り口が見えてくる。 私立の大学病院にしてはこじんまりとした造りだった。 緊張してきたのが自分でも分かった。 動悸も早くなってきている。 ぼくは歩を止めると大きく深呼吸をした。 この前のような嫌な予感がした。 そんなぼくに気がついた茉莉がぼくの傍に来る。 「辛い?」 「う・うん」 そう云うのが精一杯だった。 「大丈夫だよ。此処は病院だし・・・この前みたいになっても大丈夫。だから行こう」 ・・・他人事だと思って・・・ ぼくは茉莉に引っ張られるように病院に入って行った。 ・・・ここは病院・・・ 茉莉の云った言葉で動悸が嘘のように治まってきていた。 確かにここで発作を起こしてもきちんと処置をしてくれる。 頭の中が白くなって何も見えなかったものがゆっくりと見えてきた。 外から見た古びた感じとは違って、院内はすべてが清潔に保たれている。 白に近いクリーム色の壁・それより少し濃いめの診察室のドア・・・ ぼくはもう一度大きく息をすった。 病院独特の消毒薬の匂いも強くなくほとんど気にならなかった。 この病院を知っている茉莉がさっさと受付に行き手続きをしている。 ぼくがしたことと云えば保険証を茉莉に渡しただけだった。 「今日は内科が込んでるんだって・・ひょっとして神経科が先かも知れないよ」 「う・・うん・・・」 ぼくと茉莉は一階のほぼ真ん中にある椅子に腰を下ろした。 左側に神経科があった。 内科とは違い、そこで順番を待っているほとんどの人達が下を向いている。 そこだけが違う世界のように思えた。 「そ・それにしてもこ・混んでるなぁ」 「うん・・二回目からは予約なんだけどね。初診はしかたないよ」 茉莉は大きめのバックから雑誌を出すと読み始めた。 ぼくは目を瞑る。 色んな思いが掛け巡っている。 でもそのすべてが解決の糸口さえつかめないものだった。 茉莉の小説に対する感想も、さらにぼくを迷路に叩き込んでいる。 そんな意味のない思いをめぐらせているうちに、昨夜の不眠と薬のせいでぼくは浅い眠りに落ちていた。 茉莉に軽く肩をたたかれてぼくは眼を覚ました。 「T君の番だよ・・やっぱり神経科」 そう云ってぼくに紙コップに入った冷たい麦茶を渡してくれた。 「う・うん・・・」 ぼくはゆっくり飲みほすと立ち上がった。 茉莉を見る。 「大丈夫」 茉莉の目がぼくの背中を押してくれた。 ぼくは大きく深呼吸をしてから神経科Vと書かれた診察室に歩いて行った。 |
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