あれだけ緊張したのに、神経科の面接と検査はあっというまに終わった。

明るい診察室だった。
Bという医師は机に向かいながら何問か質問をした。
その質問は素人が聞く程度の簡単なもので、答えるぼくの方も力が抜けていく。
しかも質問の途中で内科の看護士が血液を抜きに来た。
・・・おおざっぱやなぁ・・・
10問程の質問だった。
そして質問が終わるとB医師は初めてぼくを見た。
「かなりの緊張症だね。それと不安神経症・・・何でものんびり・・・薬は・・・そのうち発作は・・・」
医者でなくても誰だってこのように云うだろう・・・そう思いながらぼくは神妙に頷いていた。
「今日は内科が忙しくてね、そちらの診察は血液検査の結果の時で良い?」
「あ、は・はい」
「うん、じゃあ来週来てくれる?検査結果がでてるから。こっちの面接は次の週でいいよ。薬は二週間分出しときます」
それで終わりだった。
ぼくは何だか馬鹿にされたような気分で診察室を出た。
もちろん緊張が解け、ほっとしたのは当たり前だったが妙に落ち着かない変な感情が残った。

二種類の薬の入った白い袋を持って病院を出る。
面接が終わった時に緊張が解けたと思っていたが、病院から出ると自然に大きく息を吸っていた。
最近は何かがすむと深呼吸をする。
そんな癖がついていた。
「ほっとした?」
「な・何とか・・」
「こっちから行こう」
茉莉は来た時と反対の方に歩き出した。
「ほっとしたにしては浮かない顔してるけど・・何かあった?」
茉莉がぼくの顔を覗き込んだ。
「そ・そんなんと違うけど・・」
ぼくの中に生じた落ち着かない感情・・・
さっさと神経医との面接が終わった事は嬉しい。なのに反面では物足りなさを感じている。
もっとあれも、これも聞いて欲しかった。
できるなら「治りますよ」の言葉。
神経科に行くことにすごく抵抗を感じていながら実際には神経科医に救いの手を求めている。
・・・あの先生が悪いんやない。最近は何時もこうや。そんなに今不満に思うんやったら何であの時自分から質問なりせえへんねん・・・
ぼくは自分の不甲斐なさが生んだ感情に怒りに似た苛立たちを覚えていた。


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