ぼくはバイクに荷物をくくりつけると、聖橋に行こうかどうか迷っていた。 バイクなら此処から3分程で行ける。 でも何故か聖橋に行くのが躊躇われた。 作品の評価がもっと違うものだったらこんなふうに思わなかったかも知れない。 「下手」と言われた方がよかった。 「主人公が動かない」・・・か。 ぼくはゆっくりとクラッチを握った。 どんな評価を受けてもいいと思って書き出した小説だった。 そして書き終えたとき、満足感と共に多少の自信もあった。 それなのに・・・ ぼくは思っていた評価とは別の部分に触れられた事に衝撃を受けていた。 強くギァを踏んだ。 何時ものようにブレーキをかけながらゆっくりとつなぐ。 動きだした車輪はそれでも躊躇いながら聖橋を向いていた。 ぼくは聖橋の手前でバイクを止める。 もうすぐ夕暮れがくる。 傾きかけた真夏の太陽を正面から受けながら、ぼくは聖橋の真ん中に立っていた。 風が流れていた。 あの日、此処で茉莉と逢った。 その日から今日までどれだけ茉莉のことを思った事か。 『青春の神話』は茉莉との再開から生まれた作品だった。 茉莉におくるラブレター。 読んで欲しい・・ 今まで思わなかった気持ちがしだいに大きくなっていく。 茉莉はどのように感じるのだろう。 その反応を見てみたかったし、感想も聞きたかった。 まだ自分の中で二人の評価に納得してない部分があった。 つまらないプライドかも知れない。 それに抽象的な評価に対する反発もあった。 「茉莉は読んでどう言ってくれるだろう」 茉莉に読んで欲しいという気持ちは、今ぼくが一番考えなくてはいけない大切なものを覆い隠そうとしている。 それが逃げてるぼくの心だという事を気がつかずにいた。 澱んだ水面から吹き上がる風は夏の匂いがする。 夏の乾いた空気と湿った空気が交わる狭間。 そこに渦巻く風がぼくを新たな迷路に引きずり込もうとしていた。 |
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