その日は雨だった。
ぼくはゼミルームで講師を待ちながら、やっと仕上げたプロットを読んでいた。
雨の日独特の湿った空気が重い気分をさらに重くする。対話形式のこの授業がぼくには苦手だった。
コーヒーを入れなおした時、一つ先輩の狭山という男が入ってきた。
「あれ?・・先生は?」
「ま・まだみたいです。」
「ふーん」
狭山はそういうと、当たり前にように腰をおろした。
このゼミの授業は対話形式。それに授業中でもゼミルームへの出入りは自由だ。時には狭山のようにいきなり入ってきて、時間をかってにつかわれる時もある。
授業内容が学生の書いてきたプロットなり脚本なわけだからその辺は大雑把だった。
「ぼくにも入れてくれる?」
「あ・は・はい」
ぼくの緊張は狭山のおかげでかなり解けていた。
「ね・・」
「はい・・」
「今日はプロット?」
「ええ」
「詰まんないよね・・だいたいさストーリーからでいいんだよ。なんでプロットがいるんだろ。そうは思わない?」
コーヒーを飲みながらぼくの方に視線をむけてくる。
「・・・・・・・・・・・・」
「まだわかんないか」
けっしてぼくを馬鹿にした言葉ではない。
だけどその言い方は嫌な後味を残した。
狭山の叔父は現役で○△映画の監督をしている。狭山自身もスタッフの一人として参加していた。
学生じゃなく、俺はもう映画人だ。お前たちとは違うんだよ。
そんな彼の思いが言動の端々に見え隠れしていた。
「遅いな・・何時もこんななの?」
「そ・そんなこ・ことな・ないですけど」
狭山はぼくの顔を見た。
「・・・じゃいいや。ね、俺が来てた事伝えといてくれる?」
ぼくの返事などどうでもいいように、そうぼくに告げると狭山は部屋を出ていった。
ぼくは窓をあけた。
まだ雨は降り続づいていた。
少しもやっているのだろうか、すべてが灰色に塗りつぶされたように見える。
「・・・どもるな」
自分が思ってるほど人は気にはしてない・・何度も自分に言い聞かせた言葉。
「・・・嫌やなぁ」
そう思ってもどうしても気にしてしまう自分がくやしかった。
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