ぼくは返してもらった原稿用紙をしまっていた。
プロットは2時間もののシナリオを5枚から10枚ほどに要約したものだ。ストーリーに進む前の段階だ。
さっき狭山が言ったようになくてはならないものではなかった。しかし、映画を創る場合、よく現場が変わる時がある。
監督・主演俳優・カメラ・・・いろんな場合があるが、その時のためのものと思えばいい。プロットを読めば大体の作品像がつかめる。
「よく降るなぁ」
開いた窓の外を見ながらポツンとB講師が言った。
「え・ええ」
「かなり慣れたな・・映画が分かってきた?」
「ま・まだ・・え・映画っていうより・・・か・勘違いし・してる部分がお・多かったんで」
「シナリオ?」
「え・ええ・・」
「もっと個人作業だと思った?」
「は・はい」
「最初はみんなね」
そう言って窓にむけたB講師の表情は少し青ざめて見えた。
B講師は○△映画の脚本家だった。
かなりの熱血漢で、日本映画全盛期の頃、世界でも通用すると言われた名監督と意見が合わず、大立ち回りした事でも有名だった。
「書くの慣れてるね」
「ま・前にす・少し・・・」
うなずいたB講師は
「おそらく散文だと思うけど・・・映像にしたい何かのテーマはあるの?」
「ま・まだ・・・というより、ど・どんなものをテ・テ−マにしてシナリオをつくればい・いいのか、じ・自分でもわ・分かってなくて・・・」
B講師は窓外から視線をぼくにもどした。
「散文とシナリオの違いは分かってるよね」
「は・はい」
「それなら、散文でもいいから何でも書いてごらん・・いい?『絵』になるように。」
「絵?・・・」
「そう・・それを強く意識して。心理描写はいらない。」
「し・心理び・描写はい・いらないんですか」
「人の心理をどうやって映像にするんだ?それは後。映画がもっと分かってからだよ。」
そう言うと悪戯っぽく笑った。
「ラブレターを書いたことは?」
「は・・・はい」
「好きな女優はいるだろ」
「は・はい」
「これは僕流のシナリオ作法だけど・・・教えようか」
何故?・・・と思った。
ゼミでは色んな話が出る。
馬鹿話のようでもそこで話される内容の中には勉強になる事が多い。
だが今のB講師との会話はあきらかに雑談の域をこえている。
何故今こんな話をするんだろう・・ぼくはB講師の気持ちが分からなかった。


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