新幹線はゆっくりと京都駅を離れた。 ほんとなら此処で降りなければならなかったが、京都に着く寸前でぼくの気持ちが揺れた。 色々考え、茉莉ともよく話しをして実家近くの病院に入院することになった。実家の近くの病院と聞いていたから大阪か神戸と思っていたのだが、京都だった。 もちろん入院する病院に関してはJ大付属病院の内科医、E医師と神経科医のB医師とも話をしたが親切に相談に乗ってくれたのはB医師の方だった。 京都の病院でぼくの担当をしてくれる神経科医はB医師の3年先輩になるらしい。アメリカのカウンセリングを勉強してきた医師で、今の日本では珍しい治療をするという。 ぼくにしてみれば、珍しい治療であろうと『何とかしたい』という気持ちが強くなっていたので不安はあるもののB医師に託すより仕方なかった。 そして翌朝ぼくは朝一番の新幹線に乗ったのだった。 茉莉は送りには来なかった。 その辺がぼくと茉莉の微妙な関係だと思う。 すごく親身になってくれるかと思うと「え?」というほどそっけなくなる。 それがぼくを苛つかせる原因にもなっていた。 茉莉と何時でも会えると思ったから東京での入院を考えた部分もあった。 ぼくはシートを倒し雨に煙る東京の街並を見つめていた。 まだ上京してから5ヶ月しかたってないのに、もう何年もいたような気がする。 重い時間だった。 東京に来てぼくはまだ何もしていない。 学生としても中途半端だ。 これからの事はさらに蒙昧としていた。 しかしそれを今考えるのはやめよう。 ・・・とにかく身体を治して・・・それからや・・・ 風景の流れが速くなっていく。 列車は今、東京を出ようとしていた。 少し胸が締め付けられる。 ぼくは目をつむった。 この前からの疲れが出たのか薬のせいなのか分からなかったが、辛い思いなど蹴散らすかのようにあっけなく眠りに落ちていった。 車内アナウンスの声でぼくは目を覚ました。 ぼんやりとした頭の中に『次は京都』という機械的な声が入ってくる。 ぼくは頭の上の荷物を見た。 ・・・もう京都か・・・ 入院する病院の事を思うと次第に緊張してくる。 ぼくは一錠薬を飲んだ。 大きく深呼吸をする。 ・・・少なくても二ヶ月・・・ 内科的には点滴だけという説明だった。 しかし安静にしたままの二ヶ月は長い。 ぼくは重くなる気分の中で窓外を見た。 東京を出る時は雨が降っていたのに、名古屋を過ぎた今は夏の太陽が出ている。 ・・・この陽光ももうすぐ・・・ 今年は今まで夏を楽しむ余裕は一度もなかった。 ・・・茉莉とどっかに行きたかったなぁ・・・ 順調にいっても退院するのは十月。 そう思うだけで溜息がでる。 ・・・降りる用意せんと・・・ そう思った時ぼくの中に入ってきた風景があった。 もう何年も見ていない懐かしい風景。 ぼくは目を閉じた。 ・・・行ってみたい・・・ アナウンスがもうすぐ京都だと告げている。 しかしぼくの中に分け入るように入ってきた風景がぼくの心を縛り、動く事が出来なかった。 そして列車はゆっくりと京都駅に滑り込んでいた。 |
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