ぼくは明け方になってようやく眠りに落ちた。
入院という事実の前で、どうあがいても逃げ場所はなかった。
薄い闇の中でぼくは何度もため息をついた。
・・・J大かN大か・・・
B医師の言った実家近くの病院での入院は考えられなかった。
今ここで東京を出たくなかった。
いくら入院の為とはいえ東京を出るという事は逃避のように思えた。
それに実家近くに行きたくない理由もあった。
ぼくはN大に入り東京に出てきたわけだが、父は最後まで良い顔をしなかった。
芸術学部ということが強く引っ掛かっているようだった。
勘当というところまではいかないがそれに近い状態だった。
だからぼくにも意地があった。
・・・今は帰りたくない・・・
ぼくは何度も寝返りを打ちながら、B医師の言葉にも拘っていた。
・・・N芸に入りたくて東京に来たんや。それやのに東京にプレッシャーを感じてるなんて、そんなんある訳ないやん・・・
自分の落ち度もあったが、最初の面接診察の時から良い感情をもっていないせいもあって、B医師の言葉はどうしても受け入れることが出来なかった。
・・・入院費は何とかなるなぁ・・・
バイクは買ったが、もらった賞金で授業料分は残っていた。
それを入院費にまわせば良い。
それに来年度から芸術学部の奨学金がもらえる事になっている。
奨学金をもらえれば後は生活費だけで、今のような深夜のアルバイトからも開放される。
そのように考えていくと身体の芯の方で尖っていた感情が次第に緩んでくる。
・・・入院も良いかも知れへんな。身体の状態が良くなれば神経も落ち着いてくるやろし・・・
つい数分前までの苛つきが嘘のようだった。
考えてみれば当たり前で、選択肢は最初から一つしかない。
単純に入院という言葉に怯えていたにすぎなかった。
そう思った時、どうしようもないやり切れなさと激しい徒労感がぼくを襲った。
・・・ぼくのすぐマイナスに考えてしまう弱さは何時からなんやろ・・・
・・・これから治していかな・・・
そう思いながら吸い込まれるように眠りに落ちてゆく。
浮かびかけた茉莉の顔が像を結ばずに消えていった。


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