大きくため息をついたぼくの横に茉莉が座った。
「ため息つきたいのは私だよ」
ぼくはD医師の云ったようにある意味、自分の神経がまともじゃない事を感じていた。
今まで授業で発表する時とか、予期不安があったときには必ず薬を飲んでいた。
ただ人に知られたくなかった。
特に茉莉には知られたくなかった。
それなのに・・・一番の弱点だと思ってる事を茉莉に知られた事がたまらなく辛かった。
「いつ行こうか・・検査しないといけないって云ってたから早い方がいいね」
「び・病院?」
「うん、あのJ大付属・・・あそこは内科も神経科もあるから」
「ねぇ・・い・行かないと・い・行けないかな?」
茉莉はちらっとぼくを見た。
「行きたくなければそれでもいいよ・・ただそれならあの薬だけは止めてね。私の友達もあの薬で遊んでてね。身体を壊したんだ・・・どんな仕事でも嫌なことってあるじゃない。・・その娘、薬に逃げちゃたんだ。」
「う・うん・・」
ぼくはその薬の事がずっと頭にあった。
確かによくない薬だという事は分かる。
・・・でも・・あの薬がなかったら・・製造も中止されると言っていた。
それだったらこれからぼくは・・この時ぼくはたまらないほどの不安を感じた。
完全にあの薬に依存してる・・それがはっきり分かった。
一度植物性の安定剤を買ったことがあった。
しかし、効果はまったくなかった。
『どうすればいいんだろう・・・」
「じゃ、行かないね・・私もこの前で検査が終わったから、あの病院にはあんまり行きたくないんだ」
その時、ぼくの方から茉莉の顔は横顔しか見えなかったが、一瞬表情がきえたように見えた。
しかしその時のぼくは茉莉の気持ちを思いやる余裕がまったくなかった。
「ま・待って・・」
「ん?」
「く・薬で・か・身体をこ・壊したって・・何処を?」
「腎臓だったかな・・」
「腎臓・・」
「うん・・国に帰って入院したって聞いたわ。もう退院してるはずなのにね。」
今のぼくは何処を悪くしたという事はそんなに大きな問題ではなかった。
それより薬だった。
病院に行けば安定剤は出してくれる。
効き目は分からないが今飲んでる薬がなくなる以上、病院の薬に頼るしか方法はなかった。
「そう・・腎臓か」
「やっぱり気になる?」
「う・うん・・」
茉莉は一つ大きく息を吸った。
「じゃあ行く?」
ぼくはうなずいた。
「しょうがないか・・関りあっちやったんだもんね。どんなかたちでもさ・・・木曜日で良い?」
「う・うん」
「じゃあ聖橋で1時にしよう」
「ご・御免」
「もういいよ・・身体はやっぱ大事だもんね」
そう言ってぼくを見た茉莉は先程の翳りなど一片もない爽やかな笑顔だった。
その笑顔にぼくの胸が傷んだ。
茉莉が何かの検査でJ大付属病院に通ってたのは知っていた。
そして今、茉莉から聞いた『あの病院にはあんまり行きたくないんだ』と言う言葉。
それなのにぼくは茉莉を自分の薬のために利用しようとしている。
そんな自分がたまらなく嫌だった。


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