ぼくは部屋の窓を開け放った。 3日間帰らなかっただけで空気が重く淀んで湿っぽかった。 肩と鼻先がひりひりしていた。 学部は校庭がないので体育の単位は夏か冬の休みに、水泳・スキー・スケートで取るようになっている。ぼくは水泳を選び千葉の館山という所から帰って来たところだった。 久しぶりの海は授業とはいえそれなりにストレスの発散になった。それに可笑しい事だが大学に入学して、初めて学生らしさを感じることができた。 それだけ今の生活に余裕がないということなのだろう。 ぼくは机に原稿用紙を出すと、この前に書いた「青春の神話」を前に置いた。A講師からの連絡で、とりあえずシナリオにするようにとの事だった。 ぼくは大きく息を吸うと、グラスにウイスキーを入れる。トリスというワンボトル340円の安ウイスキーだった。だがぼくはある意味このウイスキーに助けられていた。アルコールが身体を駆け巡る時、ぼくは一番素直でいられた。あの白い錠剤よりも優しく身体と心が開放される、そんな感じだった。 グラスの中の濃い琥珀色の液体を半分ほど一息で飲む。喉があつく焼け、尖っていた神経がゆっくり和らいでくる。 ぼくはノートを開き設定図を見た。 乱雑に書かれた絵を見ながらぼくは茉莉のことを思っていた。 茉莉はもう読んでくれただろうか。 カレンダーを見る。 あと2日・・・ 茉莉と逢う日が近づいてるというのに何故か平静だった。 何時もならもう緊張しているはずなのに・・・ こういう事に慣れてきたのだろうか。 それなら嬉しいのだが・・・ 茉莉と何を話す?・・ピリッと神経が尖る。 そのとき腰の上部に、軽いがにぶい痛みを感じていた。 通路が見える場所に席を取った。 確かに人の通る様子は良く見えるが、新宿の人ごみは・・通路を歩いているように見えなかった。 檸檬の清しい香りのする冷水を飲みながら、ぼんやりと人の流れを見ていた。 強い陽射しの中をロボットのように人が行き来している。 ぼくは平静な自分に驚きながら、それでも念のために薬を飲んでいた。 もう一度グラスの水を飲んだ時、影が揺らいだ。 何度か小さく窓ガラスがたたかれる。 茉莉が笑って立っている。 ぼくは少し身体を浮かせた。 その時初めて心が震えた。 |
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