思いあまったぼくは一つの賭けにでた。 当時、私立の文系受験科目は「英」「国」「社」の3科目。 ところがぼくが希望するN大には社会がなかった。その代わりに「実技」がある。 そこでぼくは「社・日本史」を捨てた。 かなり大きなリスクを背負うが、希望する大学を受験するにはこれしかないと思った。 そのことは受験間際まで両親には伏せておいた。 受験まで一ヶ月・・ ぼくの希望するN大もそうだが、この時期に大体の私立大の受験日が重なっている。 ここまでくれば仕方ない。 両親は渋々だが認めるより仕方がなかった。 作戦は成功した訳だが、ぼくにかかるプレッシャーは相当のものだった。 N大を失敗すれば社会を捨ててしまってるだけに後がない。 2年浪人することもできない。 家の経済的な事もあるが、あと1年浪人する集中力に自信がなかった。 そして受験。 発表まで東京にいられないので合否は電報を頼んだ。 合格発表の日。 自信はあった。 だが、時間が経つにつれ、その自信が揺らいでくる。 「駄目でも電報は来るはず・・」 ぼくは部屋と玄関を行ったりきたりしていた。 「焦っても仕方ないでしょ。もう決まってるんやから」 そういう母も落ち着かない。 ぼくの手は大学事務局の電話番号を握りしめていた・・11時までに来なければ・・ 何時のまにか降り出した雨が、ようやく緑がかってきた木々を濡らしはじめていた。 |